今年2020年の花粉症の症状は去年の2019年ほどではない印象があります。
ですが、まだまだ花粉症に苦しむ時期は過ぎていないのが現実です。
そんなときによく聞かれる疑問が

このアレグラという薬は薬は眠くなりますか?
です。

アレグラは眠気が出にくい薬の1つです。自動車運転に関しても注意喚起がなく、ほとんど眠気はでないと考えられます。
対面であればすぐに答えられますが、いつも対面とは行きません。
今回は、花粉症で処方される「抗ヒスタミン薬」と言われる薬について紹介していきます。
眠くならない薬はどれか?がわかるように図解しています。買うときや処方してもらうときの参考にすることができます。
抗ヒスタミン薬は抗アレルギー薬の一種です。

眠くなる薬と眠くならない薬を、グラフ化して比較することでどれだけ眠くなるのか差がわかるように図解しています。
目次(タップして自動スクロール)
グラフ〜20%よりも高くなると眠気が出やすくなる〜

先にグラフを持ってきました。
棒グラフの棒が短ければ短いほど眠くなりにくいことを表しています。
このグラフは
という論文に掲載されてるものを紹介したものです。
このグラフで「20%よりも右側まで棒グラフの棒が伸びている薬」に関してはかなり眠くなることが想定されます。
自分がもらった薬、あるいはこれから購入しようとしている薬が、どのあたりに位置付けられているか参考にしてみてください。
脳内ヒスタミン受容体占拠率が大きくなるとなぜ眠くなるのか?

先ほどのグラフに示していたのですが、「脳内ヒスタミン受容体占拠率」はなんぞや?という意見もあるかと思います。これを説明する前に、なぜ抗ヒスタミン薬は眠気が出るのかを図解します。
そもそも抗ヒスタミン薬でなぜ眠気が出るのか?
単純な模式図で図解してみました。

通常、ヒスタミンがヒスタミン受容体にくっつく(結合する)と刺激が伝わります。
図ではわかりやすいようにヒスタミン受容体と脳を離していますが、実際はヒスタミン受容体は脳の中にあります。もちろん脳以外にもあります。
眠気は脳の中にあるヒスタミン受容体が、鼻水などの症状は脳以外にあるヒスタミン受容体が関与します。
ところが、抗ヒスタミン薬によってヒスタミン受容体にヒスタミンが結合するのをブロックしてしまいます。すると刺激が伝わらなくなり、脳の興奮が弱まるため眠気が出てしまします。
脳内ヒスタミン受容体占拠率が大きいとなぜ眠くなるのか?
脳内ヒスタミン受容体占拠率とは
脳の中にどれだけ抗ヒスタミン薬が入り込んで、脳の中のヒスタミン受容体をどれだけ塞いでいるか?ということ
です。
薬によっては脳の中まで入りこんでいけないものもあります。こうした薬は必然的に脳内占拠率は低くなり、眠気が出にくいと考えられます。
逆に、脳内にたくさん入りこんでいく薬は、脳内にあるヒスタミン受容体をたくさん塞いでしまい眠気が出てしまうということです。
少し話が難しくなったので例を図解して紹介します。
脳内にヒスタミン受容体が12個あると仮定します。
脳内に抗ヒスタミン薬が2つ入ったとすると、脳内ヒスタミン受容体占拠率は17%となります。

一方で、脳内に抗ヒスタミン薬が6個入ったとすると、脳内ヒスタミン受容体占拠率は50%まで上昇します。

こうして、脳の中に抗ヒスタミン薬が入ってヒスタミン受容体を占拠する(くっついてしまう)割合が多くなると「眠気がでやすい傾向にある」ということになります。
実際お薬を飲んだ患者さんから聞いた眠気に関する薬の印象
あっくんのパパは薬剤師なので、薬で副作用がおこっていないか確認もしなければなりません。
特に副作用の眠気について、患者さんが訴えていた印象のある薬をリストアップしました。
- アレロック(オロパタジン)(脳内ヒスタミン受容体占拠率:14%)
- ザイザル(レボセチリジン)(脳内ヒスタミン受容体占拠率:8%)
- ポララミン(クロルフェニラミン)(脳内ヒスタミン受容体占拠率:51%)
- ザジテン(ケトチフェン)(脳内ヒスタミン受容体占拠率:77%)
- アタラックス(ヒドロキシジン)(脳内ヒスタミン受容体占拠率:71%)
あくまで上記は1薬剤師の個人的な感想です。
脳内ヒスタミン受容体占拠率の高い薬を飲んだ患者さんが眠気の副作用が多い傾向にはあります。しかしながら、脳内ヒスタミン受容体占拠率の比較的低いアレロックやザイザルでも眠気の副作用は出る印象があります。
では実際にはどれほどの頻度で眠気が出ているのでしょうか?
添付文書上の眠気の頻度
単なる感想や印象といった主観的な情報で終わらせてはいけないので、次は実際に臨床試験の段階で発生した眠気の頻度を薬ごとに示しています。
日本における医薬品の公式説明書である「添付文書」からデータを抽出しました。
このグラフにある個々の薬同士を比較することはできません!
また、ここで出てくる数値は脳内ヒスタミン受容体占拠率とは別物です。



このグラフにある個々の薬同士を比較することはできません!
例えばアタラックスは2.5%眠気が報告されていますが、ルパフィンは9.3%です。これをもってルパフィンの方が眠気が出やすい!と結論づけられないということです。
同一の臨床試験ではなく、直接全ての薬を比較した結果ではないからです。
眠気の副作用はいずれの薬でも全体の10%も占めない、という結果が出ています。
脳内ヒスタミン受容体占拠率のグラフを用いて、占拠率の高い薬は眠気が出やすいと結論づけていましたが、実際には占拠率に比例して眠気の副作用が多く出るわけではないようです。これはなぜなんでしょうか?
脳内ヒスタミン受容体占拠率と実際の眠気の副作用の報告数が比例しないのは?著者の見解
眠気自体は個人の主観によってかなり左右されます。なんとなくぼーっとするような状態でも「眠い」と表現しない人もいることでしょう。
薬を飲んでいない時でも、なんとなく眠いことはあります。何を持って薬のせいで眠いと決めるかは非常に難しいのです。
薬の臨床試験を行うときに、眠気について脳波を測定して評価するなんてことはまずありません。被験者が眠いと感じたら眠気の副作用があったという主観的な結果になります。
上記の理由により、脳内ヒスタミン受容体占拠率のグラフで示した「眠くなりやすさ」と実際の眠気の報告数の割合に違いが生じてきているのではないかと考えています。
ここまでの話のまとめ
- 花粉症の薬としてよく用いられる抗ヒスタミン薬の眠気の度合いは、脳内ヒスタミン受容体占拠率で決まる。
- ただし、実際に眠気が出た副作用の報告数は、必ずしも脳内ヒスタミン受容体占拠率の大小と比例しない。
上記からは、抗ヒスタミン薬を選ぶ際のポイントは次の2点です。
- なるべく脳内ヒスタミン受容体占拠率の低い薬を選ぶこと
- 服用して眠気を感じるようなら別の脳内ヒスタミン受容体占拠率の低い薬を試してみること
筆者の経験から、抗ヒスタミン薬の効果も副作用もかなり個人差があると考えています。個人差が薬の選択を困難にする要因となるのも事実だと考えています。
ここからは個人差について図解していきます。
抗ヒスタミン薬の効果の個人差は?
同じ薬でも、個人によって差が出るのが抗ヒスタミン薬だと考えています。
例えば、アレグラが効くという人もいれば、全く効かないという人もいます。
ポイントとなるのはヒスタミン受容体の形が個人で差があると考えられるからです。遺伝子が人によって若干異なるため、受容体の形にも差が出るのは当然だと考えられます。

図のように、Aさん、Bさん、Cさん、どの方でもヒスタミンとヒスタミン受容体は結合することができます。
ここで、ある種の抗ヒスタミン薬Kを考えてみます。

図のように抗ヒスタミン薬KはAさん、Bさん、Cさんどの人のヒスタミン受容体にも結合できます。
ところが、Bさんの場合は抗ヒスタミン薬Kがヒスタミン受容体に結合してもすぐに外れてしまいそうですね。こうして、しっかり結合できない場合はヒスタミンをうまくブロックできなくなってしまうと考えられます。
結果的に抗ヒスタミン薬Kは
- Aさんには効く
- Bさんには効くが効果が不十分
- Cさんには効く
となります。
別の場合(抗ヒスタミン薬H)を考えてみましょう。

抗ヒスタミン薬HはAさんのヒスタミン受容体には全く結合できません。逆にBさんやCさんのヒスタミン受容体には結合できます。
この場合、抗ヒスタミン薬Hは
- Aさんには効かない
- Bさんには効くが効果が不十分
- Cさんにはバッチリ効く
となります。
このように、受容体の形が人によって異なるため、抗ヒスタミン薬の効果に効く・効かないと差が出ると考えられます。
抗ヒスタミン薬の受容体にくっつきやすさが人によって異なるため、眠気の副作用も個人で差が出てしまうと考えられます。
最終的に眠くなるかならないかは飲んでみないとわかりません。
では、眠気が生活上でどのように問題になるのかをみていきます。具体的には自動車の運転をしても良いかどうかを解説しています。
抗ヒスタミン薬を飲んでいるときに車の運転はして良いか?
眠気を催すことがわかっている薬を飲むということは、基本的に自動車の運転は避ける必要があります。
日本の、薬の公式の説明書である「医薬品添付文書」には
眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないよう十分注意すること。
ザイザル 医薬品添付文書 2019年8月改訂 (第9版)
このように明確に「車の運転はするな」と書かれています。
多少眠くなっても「なんとかなる」「大丈夫だ」という安易な思いが取り返しのつかない事故を引き起こすことも考えられます。
眠気を催す薬で今から紹介する薬以外の薬を服用した後は自動車の運転はしないでください。
注意喚起を無視して運転し事故を起こした場合、「自動車保険がおりない」なんてことも考えられます。
自動車運転の注意喚起がない抗ヒスタミン薬
医薬品添付文書に、自動車運転の注意喚起がない医薬品をリスト化しています。
- アレグラ(フェキソフェナジン)(脳内ヒスタミン占拠率:2%)
- クラリチン(ロラタジン)(脳内ヒスタミン占拠率:12%)
- ビラノア(ビラスチン)(脳内ヒスタミン占拠率:0%)
脳内ヒスタミン受容体占拠率のグラフにおいて、占拠率が極めて低い薬のトップ1・2のアレグラ(フェキソフェナジン)とビラノア(ビラスチン)がこのカテゴリーに分類されます。クラリチン(ロラタジン)はトップ3には入っていませんが、添付文書では自動車の運転に関する注意喚起はされていません。
自動車運転の注意喚起はあるが注意していれば運転は可能である抗ヒスタミン薬
医薬品添付文書上で、自動車の運転はしてもいいが十分気をつけることと注意喚起のある薬です。医薬品添付文書にはこのような文言があります。
眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に注意させること。
アレジオン 医薬品添付文書 2011年9月改定(第8版)
薬を服用中に車を運転する場合は十分に注意してください、眠気を感じたら自動車の運転はしないでくださいという意味です。以下の薬が該当します。
- アレジオン(エピナスチン)(脳内ヒスタミン受容体占拠率:8%)
- エバステル(エバスチン)(脳内ヒスタミン受容体占拠率:10%)
- タリオン(ベポタスチン)(脳内ヒスタミン受容体占拠率:15%)
もしも、自動車運転が必須ということであれば、上記の6つの薬の中から合うものを処方してもらうか薬局で購入してください。(ビラノアとタリオンはまだ市販薬はありませんが)
抗ヒスタミン薬を飲んだ後どれくらい時間が経てば車の運転していいのか?
この問いに関しては、一定の見解は得られていません。
夜に飲んだから次の日の朝には運転して良いか?ということには単純にはならないことも考えられます。
新しく発売になった薬は、薬の効果が長く続くものが多いです。そのため夜に服用したからといって次の日の朝になっても体に残っている割合が高い薬が多いです。
薬がどれだけ体に残っているかを表す指標が「半減期」です。
半減期の定義としては、
と表現できます。
例えば、アレグラの半減期は17時間です。17時間経ってようやく飲んで吸収された量の半分の量まで減ってくるという意味です。
半減期が長い薬は次の日になっても体に残っている可能性が高いですので十分注意が必要です。
次の図で各薬剤の半減期をまとめてあります。

多くの薬は夜に服用してから朝まで時間が経ってもまだ体の中に半分以上残っていることになります。
従って薬を服用後は薬がまだ体に残っているので眠気が出る可能性が十分にあるということになります。この状況で車を運転して良いとはなりません。「眠気は出ない」とあなどってはいけないです。
無難に、運転を避ける。
または
運転するなら、運転の注意喚起のない(眠くなりにくい)薬に変える
ことが一番妥当な考え方です。
まとめ
- 理論的には脳内ヒスタミン受容体占拠率が高い薬が眠くなりやすい。
- 薬を選ぶなら脳内ヒスタミン受容体占拠率が低いものを選ぶべきである。
- 実際に飲んでみると眠気が出るかどうかは個人差がある。
- そもそも薬の効果にも個人差がある。
- 自動車の運転をする場合は医薬品添付文書で眠気の注意喚起のない薬を選ぶべきである。
- 眠気がどれだけ出るかは脳内ヒスタミン受容体占拠率で比較するのが良いが、実際に飲んだときには話が別である。そのため服用してみてどうだったのか?ということが最終的に眠気が出るかでないかの判断基準になる。
- 飲んでみて眠気が出ると感じたら、脳内ヒスタミン受容体占拠率の低い別の薬に変えてみる。
今回は以上となります。