
うちの子、かぜひいて薬をもらって飲ませているんだけど全然良くならないのよ。子どものかぜは長引くっていうけど本当に長い。なんでかしら?
こう言った疑問に答えます。
前提として、かぜかどうか判断するのは医師にしかできませんので受診してきちんと診断してもらうことは大切です。
診断された後は、咳が出ていたら咳止めが処方されますし、鼻水が出ていたら鼻水止め処方されます。
しかし、処方された通りに薬を飲ませてもすぐに良くならないことがあります。きちんと理由があるからです。この理由を以下で解説します。
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かぜをひいた時に出される薬はかぜを治す薬ではありません。その理由を見ていきましょう。
かぜ症候群とは
上気道炎とは鼻腔、咽頭、喉頭にかけての感染を言い、かぜ症候群、鼻咽頭炎、咽頭扁桃炎、クループ症候群、急性喉頭蓋炎などが含まれる。
このうち大部分はかぜ症候群で、鼻汁や鼻閉が目立ち、咽頭炎では喉の痛みを訴える。
原因の90%以上はウイルス感染で、一部に細菌、マイコプラズマ、クラミジアも原因となる。
安次嶺 馨, 我那覇 仁 編『小児科レジデントマニュアル』第3版, 医学書, p114, 2017

グラフにも示したとおり、かぜ症候群の原因の9割はウイルスです。(ウイルスと細菌はよく混同されがちですが、全く違うものです。本当に簡単に違いを説明すると、細菌には抗生剤(抗菌薬)は効きますが、ウイルスには抗菌薬は効きません。)
グラフから言えることは、かぜを引いた子どもの10人中1人か2人しかウイルス感染でないものはない、別の言い方をすれば10回かぜをひいて8〜9回はウイルス感染であるということになります。
ウイルスには抗菌薬が効きません。
基本的にかぜの原因になるウイルスをやっつける、つまり「かぜを治す薬」はありません。自然に治るのを待つほかないです。
では、なぜかぜをひいた時に薬を出されるかというと、いうまでもないですが不快な症状を緩和するためです。
子どもがかぜをひいた時どのくらいで治るか?これを知ることが大切です。子どものかぜ特徴を表したのが下の図です。

より引用
図の青いラインが発熱を表しています。
オレンジのラインが鼻水や咳などの症状を表しています。
- 発熱:持続期間が3日以内の発熱が多い
- 鼻症状:化膿性鼻汁(汚い鼻水になる)
- 罹患期間:約14日間 3〜6日目に症状のピークを迎える。その後は徐々に改善して行く
一般的には治るのに2週間くらい時間がかかります。
そもそも「すぐに治らない」そういうものなのです。
かぜをひいている間に鼻水が汚くなってくることがあります。しかし、かぜ症候群の典型的な症状のため基本的に抗菌薬は必要ありません。(鼻水が汚くなるのは白血球や鼻の粘膜が剥がれた破片などが鼻水に含まれるようになるからです。)
細菌感染とは ①肺炎 ②尿路感染症 ③細菌性髄膜炎 ④中耳炎 である
岡本 光宏 著 『小児科ファーストタッチ』 じほう, P2, 2019より
文献にもあるとおり子どもに抗菌薬が必要な場合は、中耳炎、肺炎、髄膜炎、尿路感染、溶連菌感染くらいです。
かぜの症状が出始めてから数日経つと症状のピークを迎えます。
見た目はひどくなったように見えるのも当然です。
ですが、かぜ症候群は上記の図のような経過を辿ることを考えれば、ひどくなったのではなく、単にピークを迎えただけでありこれからは良くなる一方であると予想できます。
治りが悪いからと抗菌薬が処方されてしまっていたとしても、効かないと予想されます。
改善の経過が予想される状況で抗菌薬を服用します。
治ります。
抗菌薬が効いたと思ってしまいます。
抗菌薬を投与して本当に治ったのかどうかは分かりません。なぜなら、抗菌薬を投与した場合と、投与しなかった場合を比べてみなければならないのですが、同時に抗菌薬を使う場合と使わない場合を比較することはできないからです。

こちらの記事でも、もう少し詳しく説明しています。
前述したとおり、かぜの原因はウイルスがほとんです。かぜを起こすウイルスをやっつける薬はありません。
根本的にかぜを治す薬はないのですが、かぜ薬を使わない根拠があります。
一般にかぜ症候群に伴う咳・鼻水に対して治療は不要である。
咳は異物が呼吸器の深部に入らないようにするための生体防御反応である。
鼻水もウイルスやアレルギー反応を引き起こす抗原を排除するための生体防御反応である。
これらを無理に抑える必要は無い。
中枢性鎮咳薬は咳反射を抑えるため、湿性咳嗽では喀痰の排泄が抑制される可能性がある。
第一世代の抗ヒスタミン薬は抗ヒスタミン作用だけで無く抗コリン作用もあるので、喀痰や鼻汁などの分泌物を粘稠にする。
いずれも中枢神経に作用する薬であるため、眠気、不随意運動、けいれんなどの副作用も起こりやすい。
永井 良三・監, 五十嵐 隆・編 『小児科研修ノート』 第2版, 診断と治療社, P376, 2014
専門的な用語の入った文献情報ですが、要約すると以下のようになります。
- 生理的に起こる鼻水・咳といった反応は生体防御の反応であり無理に止めないこと
- 無理に咳や鼻水を止めると痰が出しにくくなったり、鼻水が粘性を帯びて出しにくくなったり詰まったりすること
もっと簡単にいうと
咳や鼻水って止まれば良いの?
ということです。
なんで咳や鼻水が出るのか考えてみたことはありますか?
答えは簡単で、体に入ってきた異物を出そうと体が反応しているからです。
体は外敵の侵入を阻止しようと咳や鼻水を分泌しているのに、薬で無理に止めてしまうとどうなるか分かりますか?当たり前ですけど、重症化します。にもかかわらず、日本の病院では咳や鼻水を止める薬が多く処方されています。なんだか矛盾していますよね。
処方された薬によって治りが遅くなることが指摘されています。
あえて薬を使うとすれば、痰や鼻水を切って出しやすくする去痰剤くらいでしょう。
カナダの医療従事者は、6歳以下の子どもに対して、かぜ症状を抑える対症療法の薬は基本的には勧めません。その代わりに、咳にはスチームバスやハニーレモン、鼻水には、やはりスチームや生理食塩水の鼻スプレーなどの非薬物療法などを勧めます。
日経DI 小児のかぜに対する“フルコース処方”は必要?
カナダで上記のようなことが行われる理由は、日本の厚生労働省に当たるカナダの行政庁が、かぜの対症療法として薬を使用することを推奨していないからです。
つまり、カナダの行政庁は、かぜ症候群に対して、対症療法で薬を使用することはリスクであり、メリットがリスクを上回らないと判断しているのです。
子どものために何かできることはないか?と疑問に思われると思います。
面白い文献情報を紹介します。
かぜ症候群の多くが、患者が自らの手でウイルスを自己接種して感染しているという事実は医師の間でもあまり知られていない。
藤本 卓司 著 『感染症レジデントマニュアル』 第2版, 医学書院, p66, 2013
子どもはよく指をしゃぶったり、鼻に入れたりするのでかぜをひきやすいということになります。手を口や鼻に入れたりする前にきちんと手洗いを行えば、予防できるということです。薬を飲むより予防することの方がずっと大切だと思います。
以下のような文献もあります。
急性の咳嗽に対して有効な治療は鼻吸引である。
鼻吸引は咳症状を軽くし、上気道炎症状の期間を短縮する。
岡本 光宏 著 『小児科ファーストタッチ』 じほう, P14-18, 2019
子どものかぜには、薬を使うよりも鼻水吸引を行う方が良いということになると考えられます。
また、先ほど紹介した通り、カナダでは咳にはスチームバスやハニーレモン、鼻水には、やはりスチームや生理食塩水の鼻スプレーなどの薬を使わない治療を勧めています。
実際にこれらが有効かどうか、まだ完全に解明された訳ではないですが、実際に行われていることからもやってみる価値はあるでしょう。
別の記事でハチミツについても紹介しています。

これが最も大事だと思っています。上記でも触れてきたように、かぜは薬では治せません。治るのを待つしかないです。鼻水が出てきたら拭いたり吸引したりして出してあげる、多少の咳(呼吸が苦しくならない程度)であればそのまま様子を見ると言った姿勢をとることが大切です。
我が家では多少の鼻水や咳では我が子あっくんをほとんど病院には連れていきません。
多少鼻水や咳が出ていても様子を見ます。鼻水が出ている時は電動の吸引器で鼻水を何度も吸い出します。あっくんは最初は嫌がっていましたが、最近は自ら進んで鼻水を吸引しようとしてくれます。
その甲斐あってか、病院に行かずとも自然と治ってしまうことがほとんどでした。
かぜが薬を飲んでもすぐに治らな理由を見てきました。まとめると以下の3つですね。
- かぜ薬は「かぜを治す薬」ではない
- 子どものかぜは治るのに2週間かかる
- 処方された薬でかえって治りが遅くなることがある
子どもからしたら、多少の咳や鼻水で病院の先生に診てもらうよりも、そばで両親に見守ってもらう方がずっと安心できるのかもしれません。
薬を作ってもらうのに薬局で待つ時間、薬を無理やり飲ませる時間を、子どもとの触れ合いの時間に変えることができれば、その時間はかけがえの無い価値のある時間に変わるのではないでしょうか。