「薬とグレープフルーツの同時摂取はダメ」ということを聞いたことがある人も少なくはないでしょう。しかしながら、
「薬とグレープフルーツの同時摂取は〇〇だからダメ」
の〇〇を知っている人はほとんどいないでしょう。〇〇自体は専門的なことであり一般的に教えられてはいません。
〇〇を知っていないと、なぜ一緒に飲んではいけないのか理解できません。
人は理解できないことをただ単純に言われたことを受け入れることもできますが、理由や理屈がわかったほうが受け入れやすくなります。
子どもがなぜこれをやってはいけないか、理由とともに教えると説得力がますということと同じですね。
今回は専門家でなくても、わかるように簡単に〇〇を説明していきます。
さらに、一緒に飲んだ時にどうなるのかも併せて解説していきたいと思います。
目次(タップして自動スクロール)
- グレープフルーツに含まれる成分が、小腸に発現している薬物代謝酵素CYP3A4を阻害するため、薬の代謝が低下し、吸収される薬の量が多くなってしまう。
- このことにより薬の作用が強く現れると考えられるため薬とグレープフルーツの同時摂取は避けるべきである。
この結論を読んで理解できる人は、もはや以下の説明を読む必要はありません。
わからない人が大半だからこそ説明が必要になるわけですね。以下から説明をしていきます。
そもそもなぜグレープフルーツが薬に影響を与え相互作用が問題になったかというと、 実はアルコールの薬に与える影響を調べていた最中に偶然発見されたのです。
カナダのオンタリオ州にあるビクトリア病院のBailey博士らが行った研究でした。
以下の図のようにA群ではアルコールとグレープフルーツジュースを、B群ではグレープフルーツジュースのみ
として、それぞれ薬と一緒に服用した時にどうなるかを検証しました。

アルコールは独特の味を持つこともあり、口当たりをよくするためにたまたまグレープフルーツジュースが用いられました。
検証の結果、驚くべき事実が判明したのです。A群もB群もどちらも体の中の薬物Aの濃度が3倍になったのです。(以下の図で再度説明)

この結果は、A群にしか入っていないアルコールの働きではなく、A群とB群に入っていたグレープフルーツジュースの影響であると考えられます。
こうしてグレープフルーツジュースが薬に影響を与えることがわかりました。
さらにBailey博士は面白い検証を行っています。
同じ薬剤Aの内服と注射で違いが見られるかを検証したのです。その結果はまた驚くべき内容でした。

なんと、グレープフルーツジュースを飲むと同時に注射で薬剤Aを投与すると薬剤Aの濃度は通常通りだったのです。
内服薬と注射薬で違いはないはず!きっと内服するときに何か影響がある!
このような結論に至りました。
内服薬と注射薬では何が違うかというと、吸収される過程があるかないかです。
内服薬は一度小腸から吸収される必要があります。
この小腸からの吸収において何かが起こっていると考えられるわけです。

通常小腸には薬を分解するタンパク質(薬物代謝酵素CYP3A4)が存在しています。薬を飲んだ後、このタンパク質(薬物代謝酵素CYP3A4)によって薬はある程度分解されてしまいます。

ところが、グレープフルーツ(ジュース)によってCYP3A4の働きが悪くなり、本来分解されて吸収されないはずの薬剤が分解されずに吸収されているといった事態が起こってしまったのです。
その結果体に入ってきた薬剤の濃度が3倍にもなってしまったのです。
以下に、さらに具体例を示します。
フェロジピンという降圧薬がグレープフルーツジュースによって受ける影響を示しています。

フェロジピンは小腸で吸収される時に、CYP3A4によって70%が分解されます。
よって肝臓へ向かう薬剤は投与した量の30%ということになります。
その後肝臓に運ばれた薬は半分が分解されてしまいます。結果的に全身に回るフェロジピンの量は15%となります。
一方、グレープフルーツの影響のもとでは、フェロジピンが小腸から吸収される時に、CYP3A4によって10%しか分解されません。
したがって投与したフェロジピンの量は90%となります。
肝臓は小腸から吸収されてやってきた薬剤の半分を分解しますので90%の半分が分解されて結果的に全身に回るフェロジピンは投与した量の45%となります。
最終的に、全身に回るフェロジピンの量はグレープフルーツの影響がない場合は15%であるのに対して、影響がある場合は45%となり、薬の量が3倍となるわけです。
グレープフルーツ以外の柑橘系は大丈夫なのかという疑問もあるかと思います。
この質問に関しては別の記事で紹介していますのでそちらを参照してください。

では、どんな薬がグレープフルーツの影響を受けるのでしょうか?
影響を受ける薬は数多く存在するのですが、その中でも実際に飲んでみて影響が大きい薬をピックアップして表にまとめました。
降圧薬(Ca拮抗薬) | アダラート カルスロット ランデル | セパミット コニール ワソラン | ペルジピン アテレック ヒポカ | ニバジール カルブロック バイロテンシン |
高コレステロール血症治療薬(スタチン系薬剤) | リポバス | リピトール | ||
抗血小板薬 | プレタール | |||
抗けいれん薬 | テグレトール | |||
睡眠薬 | ハルシオン | |||
免疫抑制薬 | ネオーラル | サンディミュン | プログラフ |
グレープフルーツの代謝酵素CYP3A4に及ぼす影響は摂取をやめた後も3〜4日続きます
CYP3A4で代謝される薬は他にもまだまだあります。
自分の飲んでいる薬との飲み合わせが悪くないかどうかはその都度、医師または薬剤師に確認しましょうと言いたいですが、自身でも確認する方法があります。
本記事とは趣旨が異なるので、別記事にまとめておきます。
自分がもらった薬がグレープフルーツと飲み合わせが悪くないか調べる方法
冒頭で「薬とグレープフルーツの同時摂取は〇〇だからダメ」〇〇を知っていないと、なぜ一緒に飲んではいけないのか理解できません。と記載しました。
グレープフルーツによって、小腸から体に吸収される薬の量を増やしてしまう
このため通常以上の量の薬が体に吸収されてしまい、薬の作用が強く出るため同時摂取は避けるべきである
となるわけです。
この理由を知っておけば、もはや薬をグレープフルーツと一緒には飲まないでしょう。
万一、薬と一緒にフレープフルーツを摂ってしまったら、その薬の効果が強く出る可能性が高いです。
例えば、血圧を下げる降圧薬であれば、過度に血圧が下がる可能性があります。睡眠薬であれば眠気が続いたり、朝起きられなくなる可能性があります。
この記事が安全に薬を服用できるための助けになれれば幸いです。