先日 こういったツイートをしました。
よく使われる漢方薬といえど、違いは明確にあります。
症状にあった漢方薬が処方されているわけですから、理由もなく変えることはできないはずです。
ツイートの中の記事で取り上げられていた「更年期障害に使える漢方薬」について、以下の3つの違いを図解していきます。
- 加味逍遙散
- 桂枝茯苓丸
- 当帰芍薬散

なお、今回紹介する漢方薬は更年期障害にも用いられますが、それ以外にも用いられます。
目次(タップして自動スクロール)
3つの漢方薬の違い
はじめに、1つ1つの漢方薬がどういった症状に使われるかを図解します。

どれも「瘀血」の対応はできますが、それ以外は個々の漢方薬で異なります。
したがって、簡単に漢方薬を変更して良いということにはなりません。
個々の内容について、詳しく説明していきます。
それぞれの漢方薬の特徴〜どういう症状(状態)に使われるか〜
全体像として大まかに違いを紹介しましたが、前述の図だけでは違いは明確にはわかりません。
どういった症状、証、状態にそれぞれの漢方薬が使われるかを図解しています。
加味逍遙散が対象とする証・症状
加味逍遙散はどういった時に使われるかを詳しく見てみましょう。

虚証の患者さんに効果的な薬です。虚証とは体力がなく弱っているといったイメージです。
虚証で「瘀血」「血虚」「気逆」「気滞」といった状態に対して加味逍遙散は有効です。

こんな用語を並べられても難しい!

一旦どんな症状が出る時に使えるのか?ということだけ頭に入れておいてもらえればOKです。
- 瘀血:血の巡りが悪い
▶️ 肩こりや生理不順、月経困難などが生じる - 血虚:血が足りていない
▶️ 顔色不良、皮膚の乾燥、皮膚の荒れなどの症状が現れる - 気逆:気が頭に上る
▶️ イライラ、のぼせなどの症状が出る - 気滞:気が鬱滞している
▶️ 気分が晴れない、不安がある などの精神症状が現れる
こんな症状があれば加味逍遙散を検討して良いということです。
加味逍遙散を用いるときのポイントは
- 「イライラ」「不安感」などの精神症状を伴う
- 血の巡りが悪く、のぼせたり肩がこったりする
ということ。
なぜこのような症状に効果があるかは、含まれている生薬によります。

ちなみに漢方薬は生薬を組み合わせたものを服用しています。
個々の生薬の働きは下の図にまとめました。

「蒼朮」と「茯苓」の生薬が含まれているので、むくみなど水滞の症状にも対応できるようになっています。
同じ「虚証」に用いる当帰芍薬散との違いは、イライラなどの精神症状がある時に使えると言うことですね。
桂枝茯苓丸が対象とする証・症状
桂枝茯苓丸はどういった時に使われるかを詳しく見てみましょう。

桂枝茯苓丸は中間証の患者さんに有効な薬です。比較的体力は落ちていないと言う患者さんに用いる薬ですね。
中間証とは、実証でもないが虚証でもないということです。体力が比較的あり虚弱体質ではないというふうに言い換えられます。
中間証で「瘀血」「気逆」「水滞」「裏熱」といった状態に、桂枝茯苓丸は有効です。
- 瘀血:血の巡りが悪い
▶️ 肩こりや生理不順、月経困難などが生じる - 気逆:気が頭に上る
▶️ イライラ、のぼせなどの症状が出る - 水滞:水の滞りがある
▶️ 浮腫(むくみ)や頭痛などの症状が出る - 裏熱:体の芯で熱がこもる
▶️ のぼせなどの症状が出る

またしても個々の用語は一旦おいておいて、どう言う症状の時に使うのかを意識してみてください。
桂枝茯苓丸を用いるポイントは
- 「イライラ」「のぼせ」などの精神症状を伴う
- 血の巡りが悪く、のぼせたり肩がこったりする
ということ。
なぜ「イライラ」や「のぼせ」などに効果があるかは、またまた含まれる生薬によります。下図で桂枝茯苓丸に含まれる生薬とその働きを図解しています。

加味逍遙散と当帰芍薬散との違いは、「体力がかなりある」時に使う薬であることと「血の巡りを改善する薬」であるということになりますね。
当帰芍薬散が対象とする証・症状
最後は当帰芍薬散です。当帰芍薬散はどういった時に使われるかを詳しく見てみましょう。

虚証の患者さんに有効な薬です。虚証で「瘀血」「血虚」「水滞」「裏寒」といった状態の時に当帰芍薬散は有効です。

体力が低下しがちで虚弱体質に使うというのは「加味逍遙散」と同じですね。
- 瘀血:血の巡りが悪い
▶️ 肩こりや生理不順、月経困難などが生じる - 血虚:血が足りていない
▶️ 顔色が悪くなる、皮膚が乾燥する、皮膚が荒れるなどの症状が現れる - 水滞:水の滞りがある
▶️ 浮腫(むくみ)や頭痛などの症状が出る - 裏寒:体の芯から冷えている
▶️ 冷え性などの症状が出る
ポイントは
- 水の滞りが強く、頭痛やめまいむくみなどの症状を伴う
- 血の巡りが悪く、のぼせたり肩がこったりする
ということ。
また、体の芯から冷えるような時に服用すると体を中から温めてくれます。
当帰芍薬散に含まれる個々の生薬を見てみれば、水の滞りと血の滞りに対する薬であることがわかります。

当帰芍薬散でユニークなのが芍薬をはじめとして、痛みを抑える働きのある生薬を含むということです。これにより、生理痛や痛みなどがある際に効果を発揮してくれます。
漢方薬の副作用は?
漢方薬は副作用が少ないというイメージはありますが、副作用はいくつかあるのも事実です。簡単にまとめてみましたので紹介します。
加味逍遙散の副作用

いろいろありますが、重篤なものは偽アルドステロン症です。
今回の記事作成の発端となったツイートでもあった副作用はこのことなのです。
詳細は後述します。
桂枝茯苓丸の副作用

どんな薬でもあるような副作用しかありません。
当帰芍薬散の副作用

こちらも、どんな薬でもあるような副作用しかありません。
加味逍遙散のところで出てきましたが、特に注意が必要な副作用の一つに「偽アルドステロン症」というものがあります。名前は一旦おいておいて、この副作用が出ると重篤化する可能性が高くなります。
「偽アルドステロン症」は漢方薬に含まれる、「甘草」という生薬の量が多くなると発症する可能性が高まります。
それぞれの漢方薬に含まれる生薬の量
加味逍遙散に含まれる生薬の量

桂枝茯苓丸に含まれる生薬の量

当帰芍薬散に含まれる生薬の量

甘草が含まれるのは加味逍遙散だけです。
そのためカリウムの低下などの恐れがあるので肝臓を含まない当帰芍薬散などに変更しようとされていたようです。
しかしながら今まで述べてきたように、加味逍遙散はイライラなどの精神症状をきたす時に用いられるのに対し、当帰芍薬散はむくみや頭痛など水の滞りを伴う時に用いられる漢方薬です。
使い方が違うので、副作用が起こりそうだから変えるというのは合理的ではありませんね。
ちなみに、儀アルドステロン症が起こるとされる甘草の1日量の目安は
です。
加味逍遙散は1日1.5 gしか含まれていません。副作用が出ないとは言い切れませんが甘草の量からすれば副作用が出る可能性は低いです。
それぞれの漢方薬のまとめ
ここまで更年期障害に使われる漢方薬の違いと副作用について書いてきました。
副作用が起こった場合は薬の変更を余儀なくされます。しかし薬の副作用が起こるかもしれないという段階であれば副作用に注意しながら服用するのスタンスで良いです。
何でもかんでも副作用を気にしていたら薬は飲めなくなります。
薬は諸刃の剣です。リスクは必ず伴います。メリットの恩恵をいかに受けるかが大切です。
- 加味逍遙散:イライラ・怒りっぽいなどの精神の症状と栄養状態、元気ともに低下した虚弱者で血の巡りが悪く肩こりや月経困難などの症状がある場合に用いる。
- 桂枝茯苓丸:比較的体力がある方向け。典型的な血の滞りによる月経不順、月経困難、肩こりなどの症状を改善させる時に用いる。むくみや頭痛など血の滞りに伴う水の巡りが悪くなった状態をも改善してくれる。
- 当帰芍薬散:むくみ・めまい・頭痛といった水の滞りが原因で起こる症状を改善する。貧血など血が足りていない状況で起こる症状も改善する。
- 医薬品添付文書 ツムラ加味逍遙散エキス顆粒(医療用) 2018年2月改訂(第8版)
- 医薬品添付文書 ツムラ桂枝茯苓丸エキス顆粒(医療用)2007年5月改訂(第6版)
- 医薬品添付文書 ツムラ当帰芍薬散エキス顆粒(医療用)2014年10月改訂(第6版)
- 石毛 敦、西村 甲 著 漢方処方と方意 南山堂 2010
- 漢方医学雑誌 2010 vol.18 No.3 (103)