
この子はただ鼻水が汚くなっているだけなのに、今の症状で抗菌薬って本当に必要なのかな?
そんなふうに思いながら抗菌薬を渡すことがあります。
子どもの薬を渡す際にも薬剤師として思うところはたくさんあるのです。
そこで日頃の疑問をできるだけ知ってもらうために、子どもに処方された抗菌薬を服用させる前に知っておいて欲しいことを書いていこうと思います。
今回の内容は外来で対応できるような症状に限っています。入院するような重篤な例は記事の範囲外ですのであらかじめご了承ください。
なお「抗菌薬」「抗生剤」「抗生物質」とは一般的には同じような意味で使われるかもしれません。
しかし、「細菌感染をしている状態を改善する薬で、合成された薬」という本来の意味を持たせるために本記事では「抗菌薬」という表現に統一しています。
それでは、抗菌薬を飲ませる前に知っておいて欲しいことを紹介していきます。
あっくんのママが実際に体験したエピソードはこちら

目次(タップして自動スクロール)
処方する医師にきちんと抗菌薬を処方する理由を聞くべきです。
当たり前のことですが、なぜ抗菌薬が必要なのかを聞きましょう。説明を聞いて納得してから治療を開始することは現在は当たり前になってきています。
- 中耳炎だから
- 副鼻腔炎だから
- マイコプラズマ肺炎だから
- 尿検査でおしっこに菌が混じっていたから
- 検査で痰に細菌がいることが分かったから
など明確な回答が返ってきた場合は抗生剤の必要性が高いですので服用させてください。
一方で
- 風邪だと思うから
- (検査もせずに)細菌感染だと思うから
- ひどくなっているから
- (検査もせずに)鼻水が汚くなっているから
- なんの説明もなく抗生剤を出しておきますと言われた
などであれば抗生剤は必要ないことが多いです。
検査をして細菌がいることが確認された場合は抗菌薬を使うというのは理屈にかなっているのですが、検査をせずに抗菌薬を使うのは正しいとは言えません。汚い鼻水を見ただけで細菌感染しているという医師もいるようですが、たとえ医師であっても人間の目には細菌は見えません。
緊急で抗菌薬を投与しなければならないこともありますが、その際も投与する前に「本当に細菌がいるのか?」「どんな細菌がいるのか?」検査をしてから投与すべきです。
鼻水が汚くなるのは別の記事で書いていますのでそちらを参照してください。
厚生労働省は抗菌薬投与が不適切と考えられる基準を明確に示しています。
以下をすべて満たす患者にはその時点で抗菌薬は必要ない厚生労働省 抗微生物薬適正使用の手引き
- 鼻汁
- 鼻閉 ± 発熱 ± 軽い咳
- 呼吸障害がない
- 全身状態が良い
- 熱の持続期間が3日以内
- 美中の持続期間が10日以内
- 湿性咳嗽の持続期間が 10 日(2週間)以内
もう少しわかりやすく説明すると
- 鼻水や咳、発熱が多少ある
- 咳で呼吸が苦しそう、ゼイゼイしていると言ったことはない
- 見た目は元気である。いつもと違った様子はない
- 熱が出てから3日以内に下がってきている
- 鼻水は10日以上連続して出ていない
- 痰を伴う咳が10日以上続いていない
こう言った条件に当てはまるなら抗菌薬は必要ないということです。
よく言われる「治りが遅いから」とは、10日治療しても治らない場合を指していると考えられます。
<細菌感染とウイルス感染の区別>
ウイルス性の上気道炎による発熱は72時間以内に解熱するので(アデノウイルス感染、伝染性単核球症、インフルエンザ除く) 、72 時間以上発熱が続く場合は血液検査を実施し、細菌感染がないかを考えるべきである。
細菌感染とはである。
- 肺炎
- 尿路感染症
- 細菌性髄膜炎
- 中耳炎
岡本 光宏 著 『小児科ファーストタッチ』 じほう, p2, 2019
他にも抗菌薬が必要な事例としては、溶連菌感染症の場合や、副鼻腔炎を起こした場合なども含まれますが、一般的には文献で紹介されている内容で間違いはないと思われます。
- 肺炎
- 尿路感染症
- 細菌性髄膜炎
- 中耳炎
- 副鼻腔炎
- 溶連菌感染症
これらの診断が下っていないのに抗菌薬を処方するのは何か特別な理由があるのでしょう。 きちんと理由を確認する必要があります。
本記事の冒頭でも触れていますが、入院しなければならないほどの症状はまた話が別ですので、あくまでも外来通院で何とかなるレベルの話をしています。
著者を含む薬剤師はこうした情報をもとにして、患者(患児)の症状や経過を確認し本当に抗菌薬が必要かどうかを判断しています。
必要がないのにわざわざ苦い薬を苦労して飲ませるほど意味のないことはありません。大切なのはきちんと説明を受けて、それが本当に正しいのか判断し、納得した上で薬(抗菌薬)をませるということです。
- 薬を処方された。
- 薬を飲ませた。
- 症状が治った。
だから薬は効いた。
この理論はよく保護者が勘違いしていることに当てはまってしまします。
いわゆる「三(さん)た論法」と呼ばれるものです。「三た論法」とは、薬の効果を「使った、治った、効いた」と単純に評価してしまうことであり、語尾の3つの「た」をとって「三た論法」と呼ばれます。
- 症状が出た
- サプリメントを飲んだ
- 症状が改善した
だからサプリメントには効果があった
という事実についてを考えてみます。
一見すると、サプリメントに症状の改善効果が認められたような気もしますが、この論法ではサプリメントを使用しなくても症状が改善した可能性が全く無視されています。
「てるてる坊主を軒下につるした→翌朝晴れた」という情報から、「てるてる坊主に効果があった」と結論することと同じことにります。
話をもとに戻すと、抗菌薬を飲ませた → 治った
というのは現象を見ているだけであり、本当に治った理由が抗菌薬であるかどうかはわかりません。自然に治った可能性が全く考えられていないのです。
本当に効いているかどうかをどうやって判断するかは今回の内容を逸脱しますし、専門性が高いので割愛します。
子どもを病院に連れて行って抗菌薬が処方される前に知っておいて欲しいことは上記に書いた3点です。すなわち
- なぜ抗菌薬は必要なのか?を医師に確認すること
- どんな場合に抗菌薬は必要なのか?知っておくこと
- 保護者をだますワナが存在すること
です。
この3点を踏まえて、納得した上で子どもに抗菌薬を服用させるべきだと考えています。
今回は抗菌薬を処方される前に保護者に知っておいて欲しいことを3点紹介しました。